極めるコラム

ハウス内環境データを活用した儲かる営農への近道

アグリカルチャークラブ相談員 伊藤 健 氏

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アグリカルチャークラブの営農相談員であり、株式会社伊藤農園. Fの代表取締役である伊藤健さん。トマトの栽培で10アールあたりの収量3 0トンを実現し、儲かる農業を実践しています。また、茨城県第一号のエコファーマーとして減農薬に取り組み、独自の病害虫防除技術を確立しています。さらに、培った技術を若手へ伝えるため、研修生受け入れを実施。栽培についてはもちろん、経営面も指導するなど、若手営農家の育成にも積極的に取り組んでいます。

豊富な経験、そして独自の栽培哲学を持つ伊藤さんが語る、「モニタリングの活用方法」とは。

トマトに向き合って40年を超える伊藤健さんは「気温や湿度を数字で見なくても肌感覚でわかるし、問題が生じたときにどうすべきかわかる」というベテラン篤農家。そんな「達人」の伊藤さんがモニタリングを活用する理由のひとつが、経験によって培われた感覚的なものを「データとして」若手に伝えるため。今回は伊藤さんに、モニタリング活用法を教えていただきました。

成功事例は答えではなくヒントです。

「農業に決まった成功法はないので、自分で理想の栽培方法を見つけなければなりません。すべてが同じ条件の農場は二つとないからです。」と伊藤さんは語ります。農園によって風土や環境、つくるもの、広さや人員の数などが異なります。そのため、伊藤さんが行っていることをそのまま真似しても収穫量が10トンから30トンへと急激に膨らむという保証はありません。しかし、伊藤さんが長きに渡り培ってきた経験には、成功のためのヒントが沢山詰
まっています。

オランダ農業の成功法を鵜呑みにしない。

スマート農業先進国であるオランダの手法をそのまま取り入れる農園もありますが、伊藤さんは自己流を貫きます。「トマトで言えば、オランダは生で食べることは想定しておらず、加工することが前提。だから、日本の市場に合っている方法とは思えません。私は生でも美味しく食べられるトマトであることと、品質(糖度と食味)と安定(量)を追求したトマトづくりを目指しています。そして、もちろん儲かることも重要です。なぜなら、安定して良いものを市場に提供するためには、儲からないと続けられないからです。そして、逆に安定しているからこそ市場から信頼され、儲かることにつながります。」

質と量を両立するために必要な3要素。

伊藤さんが求める質と量を両立したトマトづくりには、病気にならないことが大前提となります。そのために重要なのが「湿度・肥料・根の活力」の3つの要素です。まず湿度を管理することで病気を防げます。肥料をあげ過ぎると「うどん粉病」になる恐れがあり、根の活力が弱っていると「灰色かび病」や「葉かび病」につながります。この3要素を適正に管理することで病気を防ぎ、質と量の伴ったトマトづくりを実現しています。

モニタリングで湿度が見える。

3要素のうち「肥料」と「根の活力」に関しては目視で状況を把握する必要があります。これは日々の観察で感覚が養われていくものなので経験が求められます。残りの「湿度」に関してはモニタリングによって見える化することが可能です。すなわち、モニタリングによって湿度を把握し、コントロールすることで、病気の発生が少ない理想のトマトづくりを実現できるのです。モニタリングによって湿度をどのように管理・調整すればよ
いのか、またモニタリングはその他にどのように活用できるのか、伊藤流のデータの見方を解説します。
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ハウス内環境データのチェックポイント。

初めて見る方にとっては難しく感じるかもしれないハウス内環境データの活用方法。見方のコツと解析法がわかれば役立つ情報がそこにあります。伊藤さんの「チェックポイント」を、ぜひ日々の栽培の参考にしてみてください。
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ポイント1 湿度100%に近い状態が長時間続けば、病気になりやすい!

湿度のコントロール方法は季節によって異なります。冬は暖房機を頻繁に使用するため湿度は低いのですが、11月と12月、春の3月~5月など、暖房機を回さずに閉め切っている期間は、温室内の湿度が100%に近い状態が長時間続く、作物が病気になるリスクが高い時期となります。ここで重要なのは、ハウス内環境データを見て、湿度の高い状態が長時間続いていないかをしっかりチェックすること。つまり、グラフを見て、長時間にわたって高湿度状態が続いている場合、何らかの対策を講じるための目安となります。伊藤さんは外気を導入することにより湿度を意図的に下げるようにしています。モニタリングデータの相対湿度(水色)を見ると「19:35」と「21:35」に数%ですが、明らかに湿度が下がっています。伊藤さんは「10分おきに5分間外気導入ファンを回す」ことで外気を取り込んでいますが、その効果のほどが、このグラフにしっかり現れているのです。また外気導入ができないハウスでも、暖房機を強制的に30分おきに5分間もしくは、60分おきに10分間使用することで、湿度を下げる方法もあります。ただし、この場合どうしても燃料費が余計にかかるので、経費を検討する必要があります。

ポイント2 「飽差」の調整方法が次の課題。

伊藤さんはモニタリングで飽差(緑色)の急激な変化に気付きました。飽差は一般に 3~6g/?が最適とされていますが、グラフを見ると「8:35」過ぎから急激に上昇し 10/?を越え、「14:35」頃に下がっています。飽差が急激に高くなると、作物は気孔を閉じ、蒸散をしなくなり、光合成の活性が落ちます。伊藤さんは飽差の変化を緩やかにするため、ミスト発生装置の導入を検討していましたが、病気が発生する恐れもあるため、ハウスの換気方法を変える(天窓の動作を6段以上の変温管理にし、午前中の設定開度を50%程度にし、1℃刻みの開閉感度で動かすことにより、温度と湿度の変化を緩やかにする)または、通路に散水して湿度を保つなどの対策を考えています。

ポイント3 CO2が300ppm程度まで下がるようなら光合成促進機の導入も。

植物は光合成が活発になるほど、成長します。従って、光合成に必要な二酸化炭素にも気を配る必要があります。モニタリングデータのCO2濃度(紫色)を見ると、「9:35」から「15: 35」までが、外気の濃度(400ppm)を下回り、300ppm近くまで下がっていることがわかります。外気導入だけではCO2の濃度を上げることができないため、伊藤さんは光合成促進機の導入を検討しています。このように、ハウス内環境データを確認することが、現在の設備で、何が足りていないかを考える目安となります。

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ハウス内環境データの活用方法を気軽に質問。「オンリーワン営農サポートサービス」

ハウス内環境データを活用するためには「自分が理想とする栽培像」をはっきりさせる必要があります。「理想的な栽培イメージ」さえあれば、環境モニタリングは「儲かる農業」のための強い武器になるということ。仮に「ハウス内環境データ」の活かし方が分からなくてもアグリカルチャークラブ会員なら安心。「オンリーワン営農サポートサービス」に質問していただくことで、篤農家から、データをもとに具体的なアドバイスを受けることができます。

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