極めるコラム
【八街農場】天敵の利⽤の注意点と秋の温度管理(ミニトマト)
こんにちは。げんき農場 ⼋街農場です。
ここ数年は毎年のように異常気象といわれており、⼋街農場のある千葉県⼋街市でも
10⽉上旬にも関わらず最⾼気温 11℃を記録し、88 年ぶりの寒波となりました。
その後は、例年並みの温度に戻ったと思えば、夏⽇を記録する⽇もあり、
どの温度帯での管理が良いのか本当に判断に苦しみます。
今回は、秋の温度管理と、天敵導⼊の注意点をまとめました。
参考にしていただけると幸いです。
1. 秋の温度管理 〜なぜ、秋は徒⻑しやすいのか〜
ここ数年は残暑が⻑引き、秋になっても温度が下がらない傾向にありました。
秋は夏ほどの⽇射量はありません。
夏は 30℃を超える温室も、秋になり 25℃前後とトマトにとって⽣育しやすい温度帯になります。
秋が深まると共に、ハウス内温度が下がり、樹勢も落ち着きます。
しかし、残暑が続くとなかなかハウス内温度が下がらず⽇⻑も短くなっていくため、
⼗分な光合成が⾏なえないまま蒸散だけが⾏なわれ、上への伸⻑が旺盛になり、徒⻑を起こしてしまいます。
対策
① ⽇射量の確保 / カーテン設定の⾒直し
遮光カーテンが定植の時のままになっている⽣産者様を時々、お⾒掛けします。
しかし、苗も活着し萎れの⼼配はなく、ハウス内温度が 30℃を超えない⽇も多くなります。
遮光を⽌めてしっかりと光を当ててやることで、⽣⻑点にある程度の太さを持たせるよう管理を⾏います。
光合成を積極的に⾏わせるため、換気設定は 22〜25℃程度にし、
⽇中のハウス温度を⾼めに持っていくようにしましょう。
② 夜間の換気
温度が冷える時期でもあり、早めに換気を閉じたくなる⽇もありますが、あえて換気を⾏います。
12〜13℃を下回らなければ、換気をしっかりと⾏い、ハウス内温度を下げ、夜間の徒⻑を防ぎましょう。
③ 過灌⽔に注意
徒⻑の要因として、灌⽔量が多いことも挙げられます。
特に曇天時の過灌⽔は徒⻑を助⻑しますので、天候に応じた灌⽔を⼼掛けて下さい。
さて、ここまでは例年に⾒られる傾向と対策ですが、今年の気候を受けて、
現在げんき農場⼋街で試みている事を紹介します。
サイド換気は⾏わず、天窓中⼼の温度管理に移⾏
10 ⽉ 7 ⽇に最⾼気温 11℃を記録したため、サイドを閉める決断をしました。
その後、暑い⽇もありましたが、全体としては平年並みよりも低い温度で推移している為、
天窓中⼼の温度管理に切り替えています。
メリットとしては、サイドからの空気の流⼊がなく、湿度が保てる事。
デメリットとしては、⽇差しが強くなると急激に温度上昇し天窓換気だけでは追い付かない事が挙げられます。
当初、急激な温度上昇を抑えるため、⽇中の天窓の設定を午前 22℃、午後 20℃とやや低めの設定にしていましたが、
⽣⻑点を⾒ると寒さを感じて節間が短くなってしまいました。(写真参照)
その為、もう少し節間を伸ばすため、現在は 22〜24℃設定で管理を⾏っています。
また、夜間は天窓を開放気味に管理していましたが、現在は夜間 18℃での開閉に設定変更しました。
今年の 10 ⽉は温度が乱⾼下している為、⾃らの⽬で観察し、何が起きているのかを読み取ることが⼤切です。
節間が急激に短くなり、樹勢もやや弱い状況に。
もう少し、太く素直に成⻑させたいので、⽇中温度を意識的に上昇させています。
2. 天敵利⽤と注意点
げんき農場⼋街では、今シーズンから天敵の利⽤を開始しました。
例年、秋⼝よりコナジラミが発⽣し、その防除の為に必要最⼩限の化学農薬を使⽤してきました。
更なる減農薬の実現と農薬散布の作業軽減効果を期待しています。
市販の天敵製剤「サバクツヤコバチ」
⻩⾊の粒が、サバクツヤコバチの蛹であり、ここから⽻化をしてハウス内に広がります。
防除計画の作成
げんき農場⼋街では、今回、サバクツヤコバチ、オンシツツヤコバチの導⼊を計画し、防除計画を作成しました。
天敵も昆⾍であるため、導⼊後は強い農薬が撒けないというデメリットがあります。
また、天敵の活動温度の問題から、温度の⾼い時期と低い時期の防除を
どうするかといった事も考えなければなりません。
防除計画作成の基本は、
①天敵への影響⽇数が⻑い農薬は定植初期に使⽤
②天敵への影響のない農薬は出来る限り温存
の 2 つに尽きると思います。
天敵導⼊中に使えない農薬は栽培初期に、影響のない農薬は天敵導⼊後を中⼼に使⽤する計画をたて、
作が終了するまで農薬のリレーが⾏えるようにする事が⼤切です。
⽣産者の皆様はご存知の通り、農薬には使⽤回数が厳しく決められています。
しかし、天敵に影響のない農薬は⾮常に少ないので、しっかりした計画を⾏わないと、
作の終盤に使える農薬が無くなってしまうという事態になります。
導⼊時期の判断
⽐較的活動温度の⾼いサバクツヤコバチですが、28℃前後で産卵数が増加する事が知られています。
しかし、30℃以上の⾼温では成⾍の寿命が短くなってしまうようですので、
関東エリアでは 9⽉下旬が導⼊時期の⼀つのポイントになるのではないかと思います。
また、コナジラミ類の発⽣に関する観察は極めて重要な作業になります。
例年、初期発⽣しやすい場所に、⻩⾊の粘着板を設置し、1 匹の捕獲を確認したら導⼊のタイミングです。
メーカーにより異なると思いますが、今回、私達の導⼊した天敵は海外からの輸⼊のため、
納期がオーダーから最低でも 1週間かかります。
そのため、毎年粘着板を設置して、発⽣時期を知っておく事が重要となります。
げんき農場⼋街では 9⽉ 27⽇に 1回⽬の導⼊を⾏いましたが、少し導⼊が遅れて、
やむなく、サバクツヤコバチに影響のない農薬を導⼊後に散布するといった後⼿対応に追われました。
そのようにならない為には、やはり導⼊タイミングを⾒極められる⽬が必要になりますね。
毎年、コナジラミ類が初期発⽣する場所を中⼼に、⻩⾊の粘着板を設置。
コナジラミの発⽣の有無を確認する。1 匹でも⾒つかれば、速やかに天敵を導⼊する。
サバクツヤコバチからオンシツツヤコバチへの移⾏
サバクツヤコバチが 28℃前後で産卵数が増加するのに対し、
オンシツツヤコバチは 25℃前後で産卵数が増加する為、サバクツヤコバチ導⼊後、
温度が下がってきたタイミングでオンシツツヤコバチを導⼊します。
げんき農場⼋街では 10⽉ 25⽇にオンシツツヤコバチを放飼する予定です。
また、春はその逆の事をします。3⽉中旬からオンシツツヤコバチを導⼊し、続いてサバクツヤコバチを導⼊します。
また、コナジラミ類を捕⾷するタバコカスミカメの併⽤も⾏えると更に農薬散布の回数は減らせるのではないかと考えています。
コナジラミ類以外には効果が無い
サバクツヤコバチ、オンシツツヤコバチは共にコナジラミ類の天敵なので、他の害⾍は⾷べてくれません。
そのためこれまで、農薬散布で気が付かないうちに防除出来ていたトマトサビダニが発⽣したという事例もあります。
また、殺⾍剤の散布の際に殺菌剤を混⽤することも多かったため、
農薬の総散布回数が減ることで病害への対策機会が減る事になります。
別の病害⾍に対し、注意深く観察するようにしましょう。
まとめ
今年は 10⽉に⼊ってから⼀気に温度が下がり、どう対処していくのか考えさせられる気候です。
私はこれまで多くの⽣産現場を⾒学させていただき、
⾃らの栽培にそれを取り⼊れ⼯夫を⾏う事を⼼掛けてきましたが、
今年ほど正しい知識が必要だと感じた事はありません。
収穫初期の着果負担が残ったまま低温に突⼊し、
樹勢の維持に苦労されている⽣産者様もいるようにお聞きします。
しかし、正しい知識があれば、その挽回策も考える事が出来ます。
知識を現場で実⽤できる知恵にするのもまた、農業の醍醐味だと思います。
これからも⽣産現場に直結する情報提供を⾏っていきますので、宜しくお願い致します。
次回は、⼆酸化炭素の濃度コントロールについてお届けします。