極めるコラム
【八街農場】収穫開始前後の肥培・灌水管理(ミニトマト)
9月に入り、日中はまだまだ暑いものの、
当農場のある千葉県八街市でも朝夕に涼しさを感じるようになりました。
涼しさが嬉しい反面、害虫の活動も活発になるので、
毎日の黄色テープのチェックが欠かせなくなりました。
前月号でもお伝えしましたが、げんき農場八街農場は8月5日から定植を段階的に開始しました。
そして、一部の品種ですが9月17日に初収穫を迎えました。
収穫が早くなった要因としては、大苗を定植しており、ステージが進んでいたこともありますが、
その後の気候が35℃を超える日が少なく、トマトの生育適温の日が多く、
順調に推移してきた結果と考えています。
さて、今月は収穫前後の肥培・灌水管理について、お話しさせて頂きます。
1.生長とともに水分要求量は大きくなる
定植直後、1株あたり300~400ml/日(以下、灌水量の表記は1株当たりの量)での
灌水をおこなっていました。
定植直後としては少し多めの灌水を行っていましたが、その量では生長と共に足りなくなってきます。
その為、生長に合わせて、灌水量を増やしていきますが、どのくらい増やしていくかが、
多くの生産者が悩んでいるポイントではないかと思っています。
排液率を見る事が出来る方は概ね30%くらいを推移するよう、徐々に灌水量を増やしていきます。
排液率を見ることができない方は、目安として、3段目肥大期に1L/日 程度に灌水量を増やすようにし、
生長点の樹勢を見ながら、増やすタイミングを計るようにします。
その後も、5~6段目開花時には、より水分要求量が増えていきます。
樹勢によってかなり異なりますが、げんき農場では概ね1.2L/日くらいまで、灌水量を増やします。
灌水量が不足すると、陽イオンであるカルシウムの吸収が阻害され、
尻腐れ果やチップバーンといった症状が発生するので注意しましょう。
尻腐れ果 チップバーン
2.秋からの灌水
段々と涼しくなり、温度による水分要求量は減少しますが、生長による水分要求量は増える為、
どのくらいの量が良いのか、悩むポイントです。
萎れを出すのは勿論NGですが、朝夕の温度が下がる時期の為、過剰に灌水を行うと、
夜間になっても培地が乾かず、常に根が濡れた状態になり、
根腐れを助長してしまうため、これも避けたいところです。
その対策としては、灌水終了時間を段階的に繰り上げていきます。
16時に終了させていたものを、15時45分、15時半、15時15分、15時という具合です。
観察ポイントとしては、日の出から朝の灌水が始まるまでの間に生長点を観察する事です。
萎れが発生、あるいは少しでも元気がないようだと、前日の灌水終了時間が早すぎる可能性があります。
朝はシャキっとしている状態を保ちつつ、段階的に灌水時間を繰り上げていく事が大切です。
3.肥料濃度の管理
生長と共に水分だけでなく、肥料の要求量も高まります。
その為、肥料濃度も段階的に上げていきます。
前月号でも書かせて頂きましたが、3段目の肥大期にはEC1.6を目標に管理を行うようにしています。
では3段目以降ですが、生産者によって下記のように意見が分かれるように思います。
①この後も段階的にEC2.2くらいまで上げる
②そのままEC1.6程度を維持していく
実はそれぞれに理由があり、肥料の要求には窒素以外の要素も絡んでいる事に注目すると理解しやすいです。
5段目開花、収穫直前にはカリウムの要求量が増大します。
①は肥料濃度をEC2.2まで上げる事で、カリウムの絶対量を増やし、花落ち、不着果を回避する考え方です。
②はあくまで樹勢を維持するのにEC1.6程度で十分に管理できるという考え方です。
ですので、一概にどちらが正しいとは言えないところです。
技術的にECを更に上げる方が樹勢を管理が難しい(おそらく初期収量は上がるが、樹の勢いがつきやすい)と
私は感じるのですが、実際に栽培されている皆様はいかがでしょうか。
4.げんき農場 八街での肥培管理の実際
8月後半から9月上旬にかけて曇天が続きました。
高温で曇天が続くと怖いのは軟弱徒長です。ひょろっとした状態ですくすく生育し、
葉と葉の間(節間)が伸びてしまい、樹勢が落ちてしまいます。
徒長の要因としては、日照不足、高温の他に、根から水分の過剰吸収が挙げられます。
その為、げんき農場ではこの期間、灌水量を増やす事と肥料濃度を上昇させる事をやめました。
(※曇天明けからは灌水量、ECとも上昇させています)
結果として、水分の過剰供給を防ぐ事ができ徒長することはありませんでした。
しかし、灌水量、ECともに上げるタイミングが遅れてしまい9月16日現在、
5~6段開花時で灌水量約900ml/日、EC1.1程度となっております。
この先の管理としては、さらにトマトにとっての気候も良くなるので、
灌水量とECを上げ、樹勢と生長点の様子を見ながらではありますが、灌水量1.2L/日、
EC1.6程度まで上昇させる予定です。
この時のポイントは、樹が太くなり過ぎず、細くなり過ぎない状態を維持させます。
細くなりそうなら肥料濃度を上げていく、太くなりそうなら肥料濃度を上げないようにします。
また、茎の太さだけでなく、葉色の濃淡もしっかり見るようにします。
さらに節間の長さを見て、長いようなら灌水量を増やさず、
逆に節間が短いようなら灌水量を増やしていくようにします。
トマトの生長はこの他の要因もある為、これが全てではありませんが参考まで。
まとめ
定植後の肥培管理は悩むポイントが本当にたくさんあります。
届いた苗の状態によって管理方法が変わりますし、毎年違う気候や、
残暑の期間によっても変わりますので、本当に悩みます。
だからこそ、私は生長点を見る時間を大切にしています。
その時、培地の中ではどのような事が起きているのかを想像するようにしています。
水分は多いか、少ないか。肥料は足りているか、不足しているか。
カリウム、カルシウムといった陽イオンは吸収できる環境にあるか、などなど。
「これで完璧」というものが農業にあるのかどうかわかりませんが、
「more better」を追求していく姿勢はいつまでも大切にしたいですね。
次回は、天敵の利用と秋の温度管理についてお届けします。
秋の幅広い温度帯にどのように対処していくのか、ご紹介できればと思います。